【ふら木曽に関わりある方のご紹介 vol.2】軽くて、暖かく、エコな、袖がない防寒着。南信州木曽上松の「ねこ」の手仕事を訪ねて。
ふらっと木曽の立ち上げから関わり合ってくれた方や、現在定期的に利用してくださっている方の紹介です。
第2回目はふらっと木曽で毎月、洋服のお直し「ダーニング」を開催していただいている二宮美香さんの活動紹介です。
「ねこ」は、動物の猫のことではありません。
今回紹介するのは、信州の南部に昔から伝わる防寒着で、袖がなく、さっと羽織ることができて、背中から優しく身体全体をあたためてくれる防寒着です。
「秘密のケンミンSHOW」で紹介されたこともあります。
この「ねこ」は、長野県の木曽地方の南木曽町と上松町で作られていて、「南木曽ねこ」と「上松ねこ」があり、形は似てるけれど町や作る家庭で違いがあります。
「南木曽ねこ」はネットなどでも販売されているのですが、「上松ねこ」は知る人ぞ知るなかなか手に入りにくい貴重なイッピンものです。
今回は、「上松ねこ」の良さを知ってほしいと、上松町観光協会と一緒に「ねこ作りワークショップ」を開催している二宮美香さんのところに訪問させていただきました。
ファッションブランドの販売員と店長の経験を経て
二宮さんは、名古屋市出身で2015年からご夫婦で木曽に移住され、上松町の倉本地区で家具や生活雑貨の製作をしている小さな木工房「椿井木工舎」をご夫婦で営まれています。
名古屋の服飾の短期大学を卒業後、今はクローズしてしまったファッションブランドの「national standard」の名古屋店の販売員と店長時代を含めて10年勤めた経験をお持ちです。
私は二宮さんと同じ世代で、「Olive」とか「装苑」という雑誌をよく見ていた世代なので、雑誌でよくみかけたブランドであることや、当時人気だったイメージモデルの市川実日子さんの話などで盛り上がりました。
アパレル業界で働いていた当時は、「national standard」の服や世界観が好きだし、服を買うことも、お客様にブランドの良さを伝えることも、苦じゃなくとても楽しかったそうです。
でも、シーズンごとにブランドから出る新作のスピードについて行けなくなってきたり、洋服の価値観がセールによって変わってしまうこと、外はまだ暑くて半袖なのに冷房がきいた店舗の中では長袖の秋物を売ること。etc....
そんなサイクルの繰り返しと、自分がずっと店長をしていたら、下の世代が育たないと思っていた頃、会社員のご主人が「木工」を学びたいということもあり、二人同時期に勤めていた会社を退職。
ご夫婦で1年かけて世界一周したり、二人とも山好きなので、車中泊で日本中の山を登るなどの経験後、木工技術を学ぶ上松技術専門学校がある信州上松町へ。
上松町のギャラリーでの「ねこ」との出会い
移住後、上松町の地域おこし協力隊として活動中に立ち寄ったのがギャラリー「蝸牛」。
そこで売られていて偶然出会ったのが木曽地方の防寒着「ねこ」。
その温かさ、軽さ、薄さに感動し、製作者の方のところに訪問し作り方を教えてほしいと懇願しました。
ですが、なかなかすぐに教わるまでいたらず、紆余曲折があったそうです。
現在の二宮さんの「ねこ」の師匠は平山さん。
ギャラリーで売られていた「ねこ」の作者は平山さんのお母さん。
もうご高齢でもう作られていないし、平山さん自身もお母さんが作っている様子を見ているだけで作り方がわからない。
ですが、二宮さんの熱意により、平山さんがお母さんの「ねこ」をほどいて作り方を再構築。
平山さんと共に、ラジオに出演したりして「上松ねこ」の魅力を発信したりしながら、2年かかりで「上松ねこ」のワークショップを2019年に開催しました。
開催すると、どの回も満員御礼。
県外の方はもちろん、地元の方で「ねこ」に興味があったけれど、作り方がわからなかったり、作るきっかけがなかった方なども参加されたそうです。
物を大切にする暮らし
二宮さんが「ねこ」に惹かれたのは、機能性だけではありません。
ねこ師匠の平山さんのお母さんは、持ち主から、着なくなった着物をもらうと、その着物から「ねこ」を作り、持ち主に恩返しとして「ねこ」を渡していたこと。
また木曽地方は昔は養蚕が盛んで、養蚕農家が沢山あり、売り物にならない「くず綿」を「ねこ」に入れて防寒着にして大切に使っていたこと。
お蚕さんも真綿になるだけでなく、最後は人が食べたり、鯉の餌になったりと命を最後まで慈しみ大切にしてた暮らしが木曽にあったこと。
そのような「物を大切にする暮らし」を「ねこ」を通じて知ることができ、もっと多くの人に知ってほしいと思うようになったそうです。
自然との「循環」を感じる暮らし
現在はご自身の畑で野菜や荏胡麻などを育て、季節ごとに、梅や山菜やキノコなどの山からの恵みをいただくとともに、最近はチャボも育てながら、自給自足に近い生活を楽しんでらっしゃいます。
物を買わなくても、自分で作って暮らすことで、自分の身体も循環していると感じ、名古屋にいる頃よりも健康になったそうです。
そんな循環した暮らしを楽しんでいる二宮さん生き方が、「ねこ」にも反映されているようです。
試着すると驚くほど軽くて、暖かく、肩が凝りません。
寒い日にちょっと羽織ったり、コートの中に着込めば外からも見えません。
私も祖母から受け継いだ着物で「早く自分のねこが欲しいっ!」と思いました。
いつか、二宮家の「ライフスタイルブック」ができたら素敵だろうなぁ。
椿井木工舎から見える信州上松の美しい森林の緑を見ながら思うのでした。